攻防の傷痕
意識を失って倒れたジョンヲルの、
濡れた髪はきれいに拭かれ、着替えも済ませた状態で、寝台の上にいた。
部屋には暖を取るための火鉢が運ばれ、
雨戸もしっかり閉じられて蝋燭の灯る暗い部屋で、
フニにはもうできる事は何もない。
だが、意識が戻る前から、ジョンヲルはしきりに苦しみ始めた。
何度も頭を振り、顔を歪めて声が漏れる。
その度にフニはオロオロとジョンヲルを呼んだ。
「ヲルさま、ヲルさま・・・」
止められているが、ミニョに診てもらおうかと思う。
だが主人(あるじ)の命(めい)は絶対だ、うろたえるばかりで踏み切れずに立ち尽くすばかりだ。
「フニ・・」
意識を取り戻したジョンヲルが低いかすれた声をかけた。
「気付かれましたか。」
安堵の顔で駆け寄るフニにジョンヲルは息をつく。
大丈夫だと言おうとして背中に走る痛みに身体を固くする。
仮面を外したジョンヲルの額に浮かぶ苦悶の表情、
「ヲルさま、お願いです。」
見かねて訴えるフニにはもうできる事はないのだ。
「・・・大丈夫・・だ・・・・・大丈・・・ぶ・・・」
幽閉されていた時から時折あらわれる痛み、
傷はすでに癒えているというのに、まるで発作のように襲ってくるこの痛みを、
ジョンヲルは見つからないようにずっと一人で耐えてきたのだ。
いつものようにやり過ごすだけ、そう考えていたジョンヲルだったが、
雨に濡れて冷えた身体は、思っているよりも深刻な状況だった。
いつまで耐えても痛みが引かない、指先は冷たいのに熱に浮かされたように額には汗が滲む。
短く切れ切れの息が続くのを、フニはこれ以上見ていられなかった。
離れに向かうと、ミニョの前に立ち、「ヲルさまが・・」と、訴える。
その言葉にミニョはとっさに薬箱を手にして走り出していた。
暗い部屋で、一人苦しむジョンヲルに駆け寄る。
「どうして・・・」
「戻られてすぐ、意識を失われて・・・」
「じゃあ、お風呂には入ってないの?」
「えっ・・ええ・・」
フニの返事より早く、ミニョはジョンヲルの手に触れる。
それから、置かれただけの仮面にも手を伸ばした。
この仮面の下の顔をミニョは知っている、でも知っている事をジョンヲルは知らない、
知らないままにして過ごすつもりだった、でも今はそんな事を言ってられない、
「沸かしたお湯と、きれいな布をたくさん持ってきてください。
それとは別に水桶もお願いします。」
言ってミニョの手はジョンヲルの仮面に触れる。
その手を止めようとジョンヲルの手が動いた、だがミニョはそれを気にすることなく仮面を外した。
とっさに隠すように手をかざして顔をそむけたが、ミニョは気付いたはずだと思う。
だがミニョは何もなかったようにテギョンの額に手を置いて、熱を確かめると、
水に浸した布を額に乗せた。
今度は別の布を熱いお湯に浸け、手を水に浸けてから熱いのを我慢して布を絞る。
それをテギョンの首に当てるとじんわりと伝わる熱がテギョンの固くなった身体を和らげた。
「お風呂の代わりです。 手と足も同じように温めてください。」
ミニョの言葉にフニは真似をして布を絞ると、テギョンの手や足を温めた。
だが、温めるだけでは痛みが消える訳ではない、
「痛みを止める薬はないのか。」
苦しむ姿に、思わず口にする。
「医者に診てもらっ・・・」
言いかけたミニョは、危険は冒さないかと思う。
「多分、・・・幻通だと思います。」
「幻通?」
「・・・・斬られた時の痛みを、身体が覚えているんです。
これは薬では治せません。『それこそ芥子のような薬でなければ…』」
ミニョは父、ジェヒョンの苦しみを思い出した。
母を亡くした痛みにずっと苦しんでいた父を、少しでも和らげたくて薬の事を調べ始めたのだ。
ジェヒョン王の事を考えて、ミニョはある事を思いついた。
「フニさん、身体を横向きに起こしてください。」
ミニョは布を桶に戻してテギョンを横に向けようとする。
「横に?」
訊き返したフニだったが、言われた通りテギョンの身体を横向きにして、
何をするのかとミニョを見る。
そのミニョはお湯に浸けた布を絞って、テギョンの服の前をはだけさせた。
驚くフニを気にもせず覆いかぶさるように抱きつく、
「ちょっちょっ・・・」
慌てたフニが声を上げる。
「傷痕を温めます。」
「・・・それで痛みが和らぐかも・・・熱くした布をください。」
ミニョの真剣な声が訴えた。
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ミニョ、看病するです。
本来のミニョ像だとオロオロするのがぴったりだと思うのだけど、
今回のミニョはしっかりものに見えると思います。
実はこの点は何度も考えました。
テギョンもそうなんだけどミニョも人生が大きく変わる事件に遭遇し、
その中で生き抜かなければならなかったのに、そそっかしくて何も出来ないままでいいんだろうかって。
何も出来ない隠された王女が生き残って皇宮に侵入し暗殺を試みれるはずがない。
生来のミニョがそそっかしい事故多発地帯だったとしても、
今のミニョは必死に生きてて、周りには気を許せる者もいない状況。
ミジャは臣下で,ミニョは指示される側ではなく、指示する側で育って、
今はミニョがいろいろな事を判断しなければいけないとなれば、誰だってしっかりするはずだ、
が今回のミニョとなってます。
父の為に学んだ知識で、唯一の希望であるテギョンを守ろうとしている、
文面では見えないのだけど、ひたむきに一生懸命な姿をイメージしていただけたらな―と思います。
って書くとすごーーく堅苦しく見えるけど、
あなたがテギョンだと知ってると、心の内を見せた、ラブ
ラインに突入となる場面なんですね。
ヾ(@^▽^@)ノ
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