給料が上がらないならもう火鉢しかない
◆8月22日上野夜
東三楼(交互)『幇間腹』/白鳥(交互)『座席なき戦い』//仲入//ゆき/雲助『お菊の皿』/楽一/甚語楼『百川』
★甚語楼師匠
四神剣の説明の入らない、珍しいマクラで九州の温泉に入った話と金を払って入る湯は元を取ろうと一時間も入る話をして、「皆さんも元を取ろうとしないように」と笑わせてから本題へ。〚百川〛の旦那は中店風でややキャラクターが軽い。女中がみんな髪を解いたと聞いた旦那の慌て方はまあ普通かな。百兵衛が階段を上り乍ら、「ウーッシェッ」と変な声を出すので、二階座敷にいる河岸の若い衆が「このうちは手を叩くとこういう仕掛けがあるのか?」と目を泳がせるのが可笑しい。百兵衛は至って朴訥な田舎者。以前聞いた時より田舎者度が増したように感じる。河岸の若い衆の初五郎は至って流暢に喋るが、物事がちっとも分かっていない。百兵衛と遣り取りをして「何処となく御尤もじゃねえよ」という科白は甚語楼師匠らしい。余り長々と無駄話はせず、直ぐに四神剣の掛け合いに入る。一寸刈り込み加減。百兵衛を隣町が差し向けた親分と勘違いした初五郎の謝り方は大袈裟なくらいの恐縮ぶりで、でもクサくないから面白い。百兵衛の「あんちゅうもん」という科白を聞いて、初五郎が意味が分からず途方に暮れる様子は面白い。百兵衛の「ありま?」は自然で目白の小さん師匠風のリアクションで面白い。百兵衛が慈姑の金団をオットセイのように飲み下す仕科も可笑しい。初五郎に「なあ?」と振られた若い衆仲間の鉄さんの「言ってた」の知ったかぶりも目白の小さん師匠風で軽くて実に良い。
初五郎が百兵衛の真似をして「まぁ、こんな詰まらねェ顔だが」「野郎が化けるのなんのとゴネ(性格にはゴテ)出したから」の気取り方も馬鹿丸出しで可笑しい。初五郎が百兵衛を「俺もああなりてェ」と言うのを聞いた仲間が「お前、あんな風になりたいの?俺は嫌だ」と呆れるのも面白い。階段を降りて来た百兵衛さんに〚百川〛の旦那が「百兵衛さん」と呼び掛ける調子は如何にも優しくて良い。百兵衛が次に飲み込まされる物は大抵、「銅の火鉢」だが今夜は「ジャガイモの煮っ転がし」と、まァ飲み込めない物ではない物に変えてあった。再び二階へ上ってきた百兵衛に初五郎が「親分、先ほどはご苦労様でした」と挨拶するのも馬鹿丸出しの第二弾で可笑しい。正体が店の奉公人とバレ、若い衆に命じられて日本橋浮世小路の常磐津師匠・歌女文字の所へ使いに行ったつもり(実際は間違えて外科医の鴨池元琳の所へ行っている)で、「行ってめェりやした!」と明るく嬉しそうな声で言うのは朴訥さが表れて実に良かった。百兵衛の持って来た箱を怪訝そうに見ながら、河岸仲間「常磐津に手遅れってのはあるか?」初五郎「うん、其処(が謎)だな」の遣り取りも面白い。「毛蟹は北海道」のギャグは初耳だけれど可笑しい。鴨池先生に「そこにあるのは儂の薬籠だ」と言われて河岸仲間が「アアッ!!!」と叫ぶのも可笑しく、「全部分かってんのはあっしだけなんですよ」と前に乗り出してくるのも更に可笑しい。目白の小さん師匠系の正統派柳家の芸である。
★雲助師匠
「夏場はよく寄席で怪談噺をしたもので」といって本題へ。中身はいつも通りで、特に変化はない。皿屋敷へ着いた若い衆が屋敷に入る際、「蚊が固まりになってやがる」と手で払うのは初めて見た場面かもしれない。お菊はさほど鉄火でなく、若い衆の能天気さも程々。
★白鳥師匠
アメ横で鮪の頭を買い、山手線に乗ったら、丁度ラッシュアワーで、鮪の頭の痕が魚拓みたいにドアに付いてしまったり、近くにいたOLの服について痴漢扱いされたという体験談から三題噺で作った新作へ(三つのお題は聞いたけれど、私は初めて聴く噺なのでストーリー展開を追うのに懸命で失念した)。神田駅で漸く優先席の隅に座ったサラリーマンが主人公。疲れているから優先席でも寝たいのに、まず隣に座った金髪の若い男がヘビメタを聞き出し、五月蝿くて仕方ない。御徒町で松子・博子の二人組のオバチャンたちが五番ア
アンを三本も買って乗って来ると、サラリーマンと金髪の若い男を座席からどけようとする。若い男が逆らうとオバチャンは五番アイアンで殴ろうとしたので若い男は慌てて逃げる。オバチャンが席を譲り合う「どうぞどうぞ」作戦にもサラリーマンは耐えて寝たふりを続ける。すると、オバチャンの一人はアメ横の魚屋でおまけに貰ったばかりの鮪の頭を無理矢理引き裂こうとしたり、鮪の目玉を刳り貫いてサラリーマンを脅かしたり、更には目玉のヌルヌルをサラリーマンに塗り付けたりする。サラリーマンが寝たふりを続けて立たないため、オバチャンたちは隣のお爺さんに標的を変え、杖を忘れて立てないお爺さんに、五番アイアンを杖替わりにと渡して遂に立たせてしまう。更にオバチャンたちは手でサラリーマンの背中を押して座席から押し出そうとする。サラリーマンは必死に耐えて寝たふりを続ける。オバチャンたちは続いて、サラリーマンの尻に五番アイアンを入れて「梃の原理」で立たせようとするがさらりーまんは必死に耐えて座席を立たない。そこでオバチャンたちは鮪の頭を網棚の上に乗せておき、刳り貫いた鮪の目玉をサラリーマンの尻の下に入れる。サラリーマンは気味が悪くて仕方ないが耐え忍び、結局、オバチャンたちが池袋で降りたのでホッとする。しかし、途端に網棚の上から鮪の頭が落ちてきてサラリーマンの頭にスポッと嵌まる。周囲の乗客の「変な人がいる!」という報せに、警官(鉄道公安官?)がやって来るが、鮪の頭がどうしてもサラリーマンの頭から取れない。サラリーマンが懇願して、オバチャンの残して行った五番アイアンを使い、何とか鮪の頭を取る。「高田馬場で降りなさい、取り調べをするから」という警官に、サラリーマンは「鮪の頭にはオバチャンの指紋が付いているから、証拠の品として一緒に持って行く」と懇願する。「何故だ?」と警官が問うとサラリーマンは「これが頼みのツナでございます」と答えるのがオチ。サラリーマンの必死さとオバチャンの強引さが物凄く馬鹿馬鹿しくて、少ない客席なのに大爆笑になった。
★東三楼師匠
馬桜師匠型。遠くで聴くと木久蔵師匠と声が似ているのはマイナス。
ニートの19歳女の子に火鉢の話をしたら泣かれた
「皆。トクマン、アル
テマン、ヘジンの婚儀のめでたき日と
相成った。盛大に祝ってやって
欲しい。その前にトクマン、一つ伝えて
おかねばならぬことがある。
長年に渡り迂達赤に席を置き
数々の戦を乗り越えて来た功績に
より、迂達赤副隊長を命ずる。
王様のお許しが出た故…
トクマン…隊長目指しより一層励め。」
「え?お、俺が副隊長?」
両端にヨンとウンスが腰を下ろし
二組の新郎新婦を囲む形となっている
上座。むろんヨンのとなりはテマン
ウンスのとなりはアルとなっている
そんな中、トクマンが驚き立ち上がり
丸椅子がころころと転がり
派手な音色を奏でていた。
「トクマン!まったく…この程度で
驚くことはなかろう。副隊長はチョモと
ともに昇進となった
チョモ!おるか?」
「はっ!こちらに」
ヨンが、古参の迂達赤が腰をおろす
長卓に目を向けると
チュンソク、サムのとなりで
これまた勢いよく立ち上がるチョモ。
「チョモ!サムの腹の子が驚くであろう
トクマンといい、お前といい・・・
落ち着かぬか!」
「・・・はい。」
と、言われたとて嬉しい訳であり
トクマンなどは小躍りしたくて
仕方がない様子である。アルが懸命に
腕を引っ張り、どうにか丸椅子を取りに
行き腰をおろす。
「互いに切磋琢磨し励め」
「「はっ!」」
「本日は無礼講である。四人の門出を
ともに祝おうではないか!」
「「「おお~~~」」」
迂達赤を始めとする
おのこらの野太い歓声がチェ家に
木霊するのである。
忙しなくエギョン、イルム、サンミ
卓の回りを行き来する
三人が精をつぎ込んだ料理がところ
狭しと、卓の上に並ぶ。
マンボ姐さん自慢のクッパも
ど真ん中で存在を主張していた。
王妃様から差し入れで頂いた
鶏肉をウンスの考案で串焼きにし
火鉢でこんがりとチョンスが
焼き上げる。風の加減一つで東屋に
香ばしい匂いが運ばれると・・・
「キュルルル---」と派手に
あちらこちらから腹の虫が鳴る
すっかりとなりに座るアルと勘違いした
トクマン・・・
「アル殿、肉を食いましょう
取ってきますから。」
「え?・・・は、はい・・・」
アルは隣に座るウンスとソマンの
腹の虫とは、分かってはいたが
流石に、口にすることは憚れ
頬を染めこくりと頷く。
「ヘジン。肉食うか?チョンスが
火鉢で焼く肉はうまいぞ!」
「・・・ですが・・花嫁は口には
しないものでは?」
「そうなのか?・・じゃあ小さく
切ってもらうよ。一口で食えば
ばれることはないさ…待ってろ」
二人の花婿が、我先にと
東屋から厨房付近へと駆ける。
「チョンス。一口くらいに切って
くれないか?あと大護軍と奥方様と
若様の分もおくれ」
流石は師匠とチョンスは嬉しくなった
今日から同じ屋根の下に
住まう事はないが、嫁をもらっても
忘れる事なく、旦那様や奥方様、
若様の事を気にかけてくれる
歳はずっと若いが
この師匠で本当に良かった・・と
腹の底で思ったら不覚にも
涙が滲み、肩が小刻みに震える
「どうしたんだ?チョンス」
「・・・いえ・・師匠・・あの人と
末永く添い遂げてください・・
夫婦って良いですから」
「分かってる。俺も初めてばかりだから
分からない事だらけだけど
頑張ってみるよ。でもな…俺は
いつまでも大護軍の私兵だから
毎日のように顔を合わすからな」
テマンは、にかっと笑い
人数分の小鉢を盆に入れ、東屋へと戻る
「なんだよ!一人で格好つけてやがる
俺だって・・・」
「恐れながら副隊長と、師匠とでは
立場が違います。師匠は聞かれていた
ように、いつまでも旦那様の私兵で
すから」
チョンスは、トクマンを立て
うまく話を畳み話題を切り替える
「どうぞ。あの方と末永く添い遂げて
下さい。そして副隊長として
その器量を十分に発揮して下さり
民を国をお守り下さります事を
願ってやみません。それと
いつぞやは、若様をお助け頂きました
事、チェ家使用人一同に成り代わり
御礼申し上げます」
「ああ…任せろ・・それは・・
俺のせいでもあったからな~
たまたま、今だ!って思っただけ
なんだけどな・・」
「それで宜しいかと…では
肉が焼けましたので…どうぞ」
チョンスも背丈はある方だが
トクマンの目線とは
やはり違うようであり幾分顔をあげ
にやりと微笑む二人・・
すっかり気を良くし、トクマンは
東屋へと駆け出すのである。
椅子を持ちヨンはウンス、ソマンの
隣へと腰をおろす。
「ソマン。うまいか?」
「とと…あ~」
「・・ふふふ…すっかりソマンの
お気に入りになっちゃたわね
みんないるけど大丈夫?
貴方の体面は?・・・」
「構わぬ。体面など遠うの昔に捨てて
おる。ふぅ…ソマンも大きくなった
ものではないか、半年前などは
匍匐前進で動き回っておったものを
今はうまいものは、皆で分け合う
そんな動作を覚え人見知りもせず
皆の懐に飛び込む、貴女そっくりと
思うておる」
そう呟くと嬉しそうに口を開けるヨン
「ソマンも食うか?」と反対に
匙を持ちソマンの口に小さな肉を
放り込む。
まだ生え揃っていない歯で
器用に噛み満面の笑みを浮かべ
ごくりと飲み込むソマン。
そんな微笑ましい光景に
来客者の目尻も下がるのである
「でも頑張り屋は貴方そっくりよ
一度決めたら遣り通すし
私を守ろうとするところとかね
…ふふふ」
「おばば…」
長卓の先頭に腰をおろす
おばば様の優しい眼差しを
ソマンは感じると膝の上からおろせ
とせがみ、ヨンが下ろしてやると
己の匙を持ち
よちよちとおばばの元へと一人で歩み
「あ~」と笑みを浮かべ
匙を口元に運ぶのだが・・・
空の匙である。・・・・
だが、おばばは嬉しそうに腰を屈め
口を開く。
「・・ソマン。うまいぞ」
そう呟くとソマンの頭を撫でる
それが嬉しいのだろう
ソマンは皆の椅子を回り一人一人
「あ~」と呟き匙を傾ける。
ソマンの背にはいつのまにやら
イルムとサンミが寄り添う姿がある
「トクマン様…一日も早くソマン様の
ような赤子を授かりとう存じます」
「・・・お、俺は体力も十分あります
す、すぐに
授かりますとも・・・」
アルがソマンの愛らしい姿に
感化されたのか、頬を染めぽつりと
呟くと、トクマンは胸を張り
しどろもどろではあったが笑みを
浮かべ答えていた。
「・・・ヘジン。赤子は授かりもの
だから、流れに任せような…」
「はい・・」
こちらの夫婦は純情そのもの
なんともうぶな二人である。
その頃ソマンは、丸卓のテマンの
親族席にいた。
ふと見知らぬ女人の前でソマンの
匙が止まる。
ソマンの様子をずっと目で追っていた
ヨンが、いつの間にやら
ソマンの背におり、マンボ姐に向かい
口を開く。
「マンボ。この女人の顔は初めてだが」
「そうだったかい?この子はソウって
言って、西域から戻って来たばかり
なんだよ。腕はたつさ、自分の武器を
誂えに西域に行っていたのさ」
「武器とはなんだ?」
「手裏剣さ、珍しいだろう
自分で形も考え器用に飛ばし
致命傷も、十分与えるんだから
大したもんだよ」
父の顔を見上げ敵ではないと
感じたのだろう、ソマンは匙を傾ける
「・・・うまい!。坊っちゃん
ありがとうよ」
長い髪を頭上で一つに括り
長身のソウが笑みを浮かべる
「ふふふ…きれいな黒髪ね
ポニーテールが良く似合ってるわ
よろしくね。ソウさん」
「ぽに・・・」
「え?あ、貴方ごめんなさい
この髪型をさす言葉なの謂れは・・・
言わないでおくわ…ふふふ」
馬の尻尾って意味は
気を悪くするだろうと口を閉ざしたが
それでも良く似合っていた。
「その手裏剣とやらの話を今度
じっくりと聞かせてくれぬか
俺の回りでは、手裏剣を使う者は
おらぬ故興味がある」
「はい。是非…奥方様と坊っちゃんも
ご一緒に」
「ありがとう…ふふふ
さぁソマン。そろそろ
主役の四人にもあげないと
臍曲げちゃうわよ。」
ヨンに抱かれ東屋に戻ると
テマンとヘジン。アルには「あ~」と
匙を傾けるのだが、トクマンにだけは
「・・・め!」と睨み付けるのである
「また俺だけ~~」とがっくり肩を
落とすトクマンの姿が滑稽に映り
どっと笑い声が巻き起こるのであった
ソウタリアンmama様に
スリバンの女手裏剣使いとして
ご出演頂きました。
ありがとうございました
婚儀が終わるまでか
話の流れで、たまにはご出演願うかも
ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ
ポチっとして下されば嬉しいです
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